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僕の好きなおじいさん

2022年10月27日

ショートショートの名手として知られる作家・星 新一は,
小学生の時に学校で配られた「家族の中で誰が一番好きですか」というアンケート用紙に
「おじいさん」と書いたのだそうです。
後で「おじいさん」と書いたのは二人しかいなかったと聞かされたそうですが,
その「おじいさん」こそが,日本の解剖医学におけるパイオニア,
小金井良精(こがねい よしきよ)です。

1859年,新潟県長岡市に生まれた良精は東京大学医学部を首席で卒業し,
官費留学生として4年あまりの間ドイツに留学します。
そこで師と仰いだのが,当時世界最高水準にあったドイツ医学を牽引する解剖学者,
ヴィルヘルム・ワルダイエルでした。
やがてワルダイエルから論文の校正を任されるほどの信頼を得た良精は,
日本人としては初の教授助手に任命され,
研究においても精神的な面においても,ワルダイエルから大きな影響を受けます。
ワルダイエルに傾倒するあまり,同じようなひげを蓄えるほどでした。

良精の帰国後,二人は手紙を交わすようになり
それはワルダイエルが亡くなるまで35年にわたって続きました
良精は,師であるワルダイエルに手紙を書くのは
自分の研究で何らかの成果が得られた時だけ,ということを信条としていましたが,
二人の手紙の内容は医学に関することだけでなく,
自身の健康状態から,お互いの研究室のメンバーや家族の近況,
大きく変化する国際情勢についての見解にまで及んでいます。
ことに日露戦争での日本の勝利を知ったワルダイエルの言葉は,
当時隆盛を極めたドイツ帝国に生きた人ならではのもので,
大変興味深いものがあります。

ワルダイエルからの40通に及ぶ手紙と,
良精が手元に残していたワルダイエルへの手紙の下書きは,
「小金井良精資料」として今も長岡市に保存されています。
弊社発刊の『新薬と臨牀』では,その往復書簡を紹介する連載
「解剖学者 小金井良精と師ワルダイエルの往復書簡―「小金井良精資料」より―」
10月号から3カ月にわたって掲載します。

筆者はドイツ・ルール大学ボーフムの客員研究員でおられる青柳正俊氏。
ご専門は幕末維新期の国際関係史ですが,
長年にわたって二人の往復書簡を研究されてきました。

人生を研究に捧げた人にとって,成果を出すことと同じくらい
よき師,よき弟子に恵まれることは幸せなことだろうと思います。
秋の夜長,激動の時代を生きた二人の医学者の物語をちょっと覗いてみませんか?

(梅)
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