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壁は崩れる?

2017年5月9日

5月1日,横浜内科学会の先生にお声掛けいただき,
医療者と宗教者の会食会という,ちょっと珍しい会に参加しました。

横浜内科学会では神奈川県内科医学会,健康長寿社会を目指す委員会との共催で
ほぼ毎年,主に宗教者による特別講演会を開催しています。
今回の会食会は,今年3月に開催された5回目となる講演会終了後,
宗教者の方とゆっくりお話をしてみたいという医療者からの要望に応えて企画されたとのことでした。

参加された宗教者はチャプレンとして病院で活動されている神父の方,
臨床宗教師として在宅医療の現場で活動されている僧侶の方,
そして臨床宗教師であり精神科医でもある神主の方。
ちなみにチャプレンとは病院や学校などの施設で人々の心のケアにあたる聖職者,
臨床宗教師とは終末期医療の現場や被災地で人々の心のケアにあたる,
あらゆる宗派の宗教者を指します。

一方の医療者は横浜内科学会に所属されている開業医や
公衆衛生を専門とされる大学教授など7名。

実は,医療者は8名の予定でしたが,この会を企画され,
おそらくこの日をいちばん楽しみにされていた先生が2日前に急逝されたため,
会は先生を偲ぶ会ともなりました。

そのため,医療者と宗教者が,「死生観」や「死の受容」について語り合う,
という本来の趣旨からは少し離れてしまいましたが,
それでも医療と宗教のかかわり,日本人の宗教観・死の受容について
それぞれのお考えを伺う貴重な機会となりました。
 
弊社発行の月刊誌『新薬と臨牀』で,「私の死生学・死生観」という
医療者・宗教者によるエッセイの連載を担当して以来,
終末期医療に関する学会や,医療と宗教の協働に関するシンポジウムなどに参加してきましたが,
そのような場でお目にかかる医療者は,
やはり終末期医療の現場にいらっしゃる方がほとんどのように見受けられました。
ですので,今回の会は,参加されていた医療者の方全員が,
終末期医療,緩和ケアやホスピスを専門とされている方ではないという点が,
とても意義深いことのように思えました。
「治すこと」だけでなく「死」に向き合おうとする医療者,
医療と宗教の協働について考える医療者
が,増えてきているということでしょうか。

以前,ある臨床宗教師の方から,
「昔は終末期医療にかかわろうとしても何もできなかった。それだけ医療と宗教の壁は厚かった」
と伺ったことがあります。
でも,多死社会を迎え,その壁は少しずつ,薄く,低くなっているのかもしれません。
医療も宗教も,人々を救うもの,人々の幸せに貢献するものであることに変わりはないわけで,
協働することが患者さんのためになるのであれば,
壁は崩されるべきだと個人的には思っています。

会にお声掛けくださった先生は,亡くなられた先生の遺志を引き継ぎ,
今後もこのような会や講演会を企画し,
積極的に医療と宗教の融合を働きかけていきたいとおっしゃっていました。
始まったばかりの小さなこの会がどのように発展していくのか,
できることがあれば協力させていただき,参加していきたいと思っています。

(梅)
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