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「がん教育」ってなあんだ?

2019年11月28日

2012年の第2期がん対策推進基本計画に盛り込まれたことから,
今,小中学校と高校で「がん教育」の取り組みが始まっています。
学習指導要領にも記載され,文部科学省も後押しするこの「がん教育」。
「がんの予防,早期発見・検診などへの関心と正しい知識を身につける」
「がんと向き合う人々とふれあうことを通じて自他の健康と
命の大切さ,生き方を教える」

というのが文科省の掲げる目標です。

とはいうものの,実際のところ
「がん教育」ってどんなふうに行われているのでしょう?

というわけで,ご縁を頼って「がん教育」の見学に行ってまいりました。

場所「がん教育」の先進地区として知られる東京都豊島区の要小学校。
教え手はこれまた「がん教育」の先進県である鹿児島で,
NPO法人「がんサポートかごしま」の理事長を務める三好 綾さん
がんサバイバーの三好さんは,2010年からがんについて,いのちについて,
多くの学校で教えておられる“がん教育のトップランナー”のような方です。

三好さんの「がん教育」では通常,
子どもたちは事前に学校の先生から「がん」の基礎知識について教わり,
「がん患者さん」として学校にやってくる三好さんに
聞いてみたいことを書いて提出しています。
三好さんはあらかじめその質問を受け取り,
それを元に授業を進めるのですが,クラスには
家族や親戚にがんの人がいる子,
がんで身内を亡くした子,
さらには自身ががんの治療中,
という子がいる場合もあります。
三好さんは事前にそういった情報を先生から伝えてもらい,
その情報にあわせて授業の内容を少しずつ変えていくといいます。
そのために前もって30人におよぶ子どもたちの名前と質問を表にし,
多色マーカーで細かく印をつけていらっしゃるのを見て,
まずはその綿密な準備,気配りの細やかさに驚かされました。

授業が始まれば,明るく元気な三好さんのペースに
子どもたちはどんどん巻き込まれていきます。
がん患者さんが教室にやってくると聞いていた子どもたちは
ちょっと圧倒されながらも,時に笑い声を上げ,話に耳を傾けます。

そんな明るい三好さんが,ふいに子どもたちに尋ねます。

「今まで一度でも死にたいと思ったことがある人はいるかな――」

がんは三好さんのように元気になれることもあれば,
残念ながら亡くなってしまうこともあります。
三好さんの「がん教育」は,ご自身の経験を元に
「がん」について教える,というよりは,
「いのちの重さ」,「いのちの大切さ」を伝えようとするもの
でした。
三好さんとともに「がん教育」に取り組まれていた男性の,
亡くなる直前の最後の授業の言葉に,
涙を流す子どもたちの姿がありました。

「がん教育」の担い手として,文科省はがんの経験者や医療者を
外部講師として活用することを勧めていますが,
実際には費用や人材の問題から,
学校の先生が教えているケースが多いとのこと。

でも,せっかくの機会です。
死を覚悟するという経験をした人が,
「いのち」について伝えようと発する言葉には特別なものがあり,
それは子どもたちにもちゃんと伝わります。


「がん教育」の担い手が増え,
子どもたちが「がん」について,「いのち」について
考える機会が増えていくことを期待したいと思います。

(梅)
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