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倉本 聰氏の提言への違和感

2021年5月13日

4月25日,日本尊厳死協会のホームページに
脚本家倉本 聰氏からの「緊急メッセージ」が公開されました。

40年来の友人が,がんによる大変な苦しみの中で亡くなっていく様子を見て,
「悲しみと空しさと,怒りの中で」書かれたというものです。

あまりの苦痛から自殺も試みたというその友人について,
倉本氏から相談を受けた内科医は
「まだ新薬ができる望みもありますから最後まで希望は捨てないように」
と言い,
また呼吸苦によりベッド上で「のたうちまわっていた」友人の姿をみかねた倉本氏が
何とか楽にしてやってほしいと懇願するも,
病院では応じてもらえなかったということでした。

この経験から倉本氏は,
「人命尊重という古来の四文字を未だに唯一の金科玉条とし,
苦痛からの解放というもう一つの大きな使命であるはずの医学の本分というものを,
医が忘れてはいまいか」
「尊厳死,安楽死の問題をタブーという檻の中に閉じ込めて
真剣な議論の俎上にすらのせないで逃げている」
「意識のレベルを下げることができるのに延命のためにそれを用いない」
「苦しさから解放され,一気に死にたい。そのために僕は,尊厳死協会に入会している」
と書かれています。

うーん,どうなんでしょう・・・?

確かに「新薬ができる望みもあるから頑張れ」というような言葉は
この段階で,この状態の患者さんに対する言葉としてはいかがなものかと思いますが,
ここで訴えるべきは緩和ケアの拡充ではないでしょうか。
意識レベルを下げる技術があるのに使われなかったのは,
延命のためというよりも,緩和ケア医のいないその病院では
その技術を持つ医師がいなかったからではないかと思われます。
また,尊厳死協会の目的は「無意味な延命措置の拒否」を認めてもらうこと,
「苦痛を和らげる措置を最大限に実施」してもらうこと等であり,
「苦しさから解放され,一気に」死ぬことを叶えてもらうためではないはずです。

仙台で在宅での看取りに取り組まれた故岡部 健先生は,
かつて大学生に向けた講演でこんなことをおっしゃっています。

「がん対策基本法ができたということは皆さんもうご存じですね。
この法律がなぜ生まれたかというと,緩和医療技術が,
病院にもそれぞれの地域にも普及していないからです。
この法律は医療者にとってはほとんど恥と言ってもいいような法律で,
『あんたがたが自分でできないから先に法律をつくるよ』
と言われてしまったということです」

この講演は10年以上前のものですが,
いまだに日本では緩和ケアが十分に普及しているとは言えません。
緩和ケアにかかって死ぬことができるのは恵まれている,
と言う医師もいるほどです。

倉本氏の友人のような最期を迎える方をなくしていかない限り,
「苦しさから解放され,一気に」死ぬことを望む声は強くなる一方でしょう。
しかしその望みに応えることは,
「苦痛からの解放というもう一つの大きな使命であるはずの医学の本分」を
果たすことになるのでしょうか?

倉本氏のような発言力のある方にこそ緩和ケアの充実を訴えてほしかったと
少し残念に思った「緊急メッセージ」でした。

(梅)
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