医情研通信 Column & Blog

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フレディがもし生きていたら。

2019年6月11日

昨年公開され,社会現象と言えるほどの大ヒットとなった
映画「ボヘミアン・ラプソディ」
さすがにもう上映は終了しているだろうと検索してみたところ,
都内ではまだ1日1回とはいえ,手拍子・歓声OKの
「“胸アツ”応援上映」をしている映画館がありました
(6月6日現在・しかもチケットは完売)。
DVDが発売されていても,やはりスクリーンで一緒に足踏みしたり
歌ったりしながら観るのは楽しいのでしょうね。

ところで映画の主人公,フレディ・マーキュリーが
45歳で亡くなる要因となったHIVが,
いまや不治の病でないことは皆さんご存じのことと思います。
90年代半ば以降さまざまな治療薬が開発され,
早期に治療を開始すれば,
その平均余命は非感染者とほぼ変わらない
ことを示す海外のデータもあります。

しかし,HIV感染者が非感染者と同じような健康状態でいられるか,
というと残念ながらそれはなかなか難しいようです。
HIVに感染しているということは
慢性的に全身が炎症を起こしている状態であり,
そのことと,HIVの治療薬による影響もあって,
さまざまな合併症のリスクを抱えることになるのです。

たとえばHIV感染者では老化が早く進む傾向にあります。
そのために動脈硬化や心血管系疾患,認知症や腎障害を合併しやすくなります。
さらに骨粗鬆症や筋力の低下が多く認められるというデータもあります。
つまり,高齢化に伴い,HIVの治療に加えて
析が必要になったり,
骨折や認知症のために介護が必要となったりするHIV感染者が増える
可能性があり,
すでに現在,そのような方が沢山いらっしゃるのです。

ところがここから先がちょっとびっくりなんですが,
いまだにHIV感染者に対する差別意識・偏見は根強く,
透析をはじめとする慢性疾患の治療や施設への入居を拒む医療機関,
介護施設が多い
というのです。
医療機関や介護施設用の感染対策マニュアルが整備され
しかもきちんと血中ウイルス量が抑えられたHIV感染者では,
感染力はほとんどないということが証明されているにもかかわらず,です。
さらに,受け入れ拒否の背景には,HIV感染者にはゲイの方が多い,
ということもあるようです。

しかし皆さん,時代は令和ですよ。
この時代にあってこんなことが許されていいのでしょうかっ!
日本をこよなく愛したフレディがこの現状を知ったら
さぞやお嘆きのことでしょう。
そもそも、その病や背景を理由に、
必要な医療・介護が受けられないということは
あってはならないはずです。

・・・というわけで,昨日発売の『新薬と臨牀』6月号では,
高齢化するHIV感染者の現状と課題について取り上げました。
「HIV感染者の高齢化による問題―合併症の増加と診療体制の問題を中心に―」と題して
国立病院機構九州医療センター AIDS/HIV総合治療センターの山本政弘先生に,
「高齢HIV感染者における合併症のスクリーニングと治療─がんを中心に─」と題して
がん・感染症センター 東京都立駒込病院 感染症科の田中 勝先生,今村顕史先生に
ご執筆いただいています。

そうなんです,HIV感染者は,非感染者よりもがんの発症率が高いのです。
それなのにホスピスですら受け入れを拒否するところがあるという事実・・・

このような問題が1日も早く改善され,
HIV感染者の方がどこでも安心して必要な医療・
介護が受けられるようになることを願います。

(梅)
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