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追悼 樹木希林さん

2018年10月18日

女優の樹木希林さんが亡くなられました。

思い出されるのは去年の3月,野の花診療所開設15周年を記念して,
鳥取市内で開催された樹木希林さん,谷川俊太郎さん,
徳永 進先生(野の花診療所院長)によるトークショーでのこと。

ゆうがた うちへかえると
とぐちで おやじがしんでいた

という,どきっとするような2行で始まる谷川さんの詩
「ゆうぐれ」を樹木さんが朗読しました。
詩はそのあと,「おふくろ」も「あにき」も「しんでいた」という,
なんだか大変なことになっていくのですが,

いつもとかわらぬ ゆうぐれである
あしたが なんのやくにもたたぬような

と,なにごともなかったかのように終わってしまいます。
読み終えた後,感想を求められた樹木さんが,
「それだけ死は日常にあるっていうことなんですねえ・・・」
とひとりごとのようにおっしゃったとき,
会場の空気がすっと変わったのを感じました。

「がんっていいですよ。まわりの人がみんな,真摯に対峙してくれますから」

これはトークショーのチラシに書かれていた樹木さんの言葉です。
以前,がんで亡くなったあるジャーナリストは,
末期がんだからって特別扱いしないでほしい,
腫れ物に触るようにしないで,普通にしていてほしい――と書き残しました。
ただ,経験のある方であればおわかりいただけると思うのですが,
死が日常にあるということをすっかり忘れて生きていると,
これがなかなか難しいのです。
変に緊張してしまったり,気を使いすぎて口数が減ってしまったり。

おそらく樹木さんと接する人の多くも,そんな感じだったのではないでしょうか。
でも樹木さんは周りの人のそんな態度を,
“真摯に対峙してくれているがゆえ”と受け止めたのではないかと思います。

「女優をやってて良かったなあと思うことは,
ものごとを俯瞰で見られるようになったこと」


俯瞰で見れば死も日常になり,
治療の手立てのない病を抱えた自分も,
そんな自分と接する人の態度も,
違った受け止め方ができるのかもしれません。
変えられないものが,受け止め方ひとつで変わってくる。

「なんでも面白がることが大事,楽しむんじゃないの」

どんな状況にあっても,
それをいったん自分の手から離して眺め,
また手の内に戻してじっくりと味わう,
そんな術を自分のものにされていた方だったのだろうと思います。

樹木さんのご冥福をお祈りします。

(梅)
鳥取の商店街の店先に張り出されたトークショーの案内板。
あっという間にチケットが売り切れたため、
午後のトークショーの前に“午前の部”も設けられました。
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